本日の「未出の過去問」です。
「未出の過去問」
未出の過去問とは、過去問出題後において、条文・判例等の変更により、過去問の正誤が変更されたにもかかわらず、その後、本試験で出題されていないものをいう。
(主に、過去問の買い替えをケチってるエコな方にオススメの記事である。)
今日の「未出の過去問」は、相殺から。
今年の本試験では、相殺からの出題可能性は高いと思います。
ただ、ちょっと気になることがあります。
そのあたりの悩みは、こちらの出題予想をお読み下さい。
合わせて、こちらも相殺の対策として読んでおいて下さい。
さて、今日の問題を解いてみましょう。
【未出の過去問】(H24-16-5)
不法行為により生じた債権を受働債権とする場合であっても,双方の過失による同一の交通事故によって生じた物的損害に基づく相互の損害賠償債権の間においては,相殺をすることができる。
………(考え中)………
では、正誤です。
【正誤】〇 (509条本文①)
相殺できる。
改正前までは、一律、不法行為債権を受働債権とする相殺が禁止されていました。
ただ、相殺が禁止されている趣旨は、
①現実に給付をするという被害者の保護
②不法行為の誘発の防止
という2点の理由でした。
最判昭和54年9月7日です。
全文
つまり、
①実際に被害者に治療費を払ってあげないと、加害者側から相殺しちゃうと、被害者が治療費が払えなくなって困るでしょ。
②加害者側で治療費が相殺できるとすると、被害者がお金を返さないときに、わざと、加害者が殴ったりして治療費を発生させて、被害者が泣きついてきたときに相殺するような卑怯者が現れるでしょ、
という2点から加害者側からの相殺が禁止されていました。
ということは、
例えば、車と車がぶつかって、車だけが凹んで、ケガをしていないような物損事故の場合には、
①治療費を払う必要がない
②不法行為を誘発するわけではない
ので、車の修理代金を相殺でチャラにしても問題がないわけです。
ということで、相殺の禁止場面が広すぎるという批判から、
相殺の禁止の範囲を必要な範囲に制限する改正がされました。
では、条文を見ておきましょう。
【根拠条文・判例等】(551条1項)
(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
1号が、上の②に対応します。
わざと、治療費を発生させるような②の場面に禁止の範囲を限定します。
「わざと=悪意による」と読めば、分かりやすいです。
次に、2号が①に対応します。
人が死んだり、ケガしたら、治療費をちゃんと払ってあげよう、相殺はダメだよ、ってことです。
2号は、「不法行為」に限らず、「債務不履行」の場面も含みます。
例えば、安全配慮義務違反のような債務不履行でも、相殺は禁止されるわけです。
今年、相殺が出題されるのであれば、真っ先に押さえておきたい改正なので、
しっかりと条文を理解しておきましょう!
今回の設問は、物損事故なので、不法行為の誘発も、治療費も関係がないので相殺ができるわけです。
まさに、「未出の過去問」
【同趣旨の出題】
なし
民法の相殺は一方的な意思表示です。
お互いが納得した上での相殺契約は別問題なので、分けて考えて下さいね。
では、また次の「未出の過去問」でお会いしましょう!
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最終更新日 : 2020-07-17