ちょっと前の「挑戦状」の続きです(笑)
「2~3日以内に」と書きながら、随分遅くなったなぁ~というクレームは受け付けません(笑)
司法書士試験の記述の問題を見て、いつも思うことがあります。
それは、記述の試験で登場してくる司法書士の能力の高さ。
依頼を受けて、「同日に」登記の申請を出せるスピード感
依頼から聞いた内容を、瞬時に「真実」と見極める判断力
登記記録等の書類を見なくても、事実関係が聴取できる空想力
本当に、その能力の高さに驚かされます。
今日は、そんな能力の高い司法書士に勝負を挑んだ男の話です。
今回の相手は、H26の不動産登記の依頼を受けた「司法書士 法務花子」です。
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僕の事務所に、抵当権抹消のご依頼の電話。
とりあえず、書類を持ってきてもらう間に、申請の準備をしておきます。
気を付けるのは、試験と同じです。名変があるか、どうか。
電話口では、「住所の変更はない」と言われてましたが、あんまり信用してません(笑)
聴取した内容を、「ホントかなぁ~」と思いながら聞いて、書類で確認するまで、安心できないのが司法書士の性(さが)。
その意味では、司法書士試験の記述で登場する司法書士は素直です(笑)
名変トバシでの枠ズレは、減点ではなく、実務では却下です(笑)
とりあえず、登記情報提供サービスで登記記録を確認。
ホントに、住所に変更がないことを確認して、オンラインで申請しようかな~と準備を始めていたら…
あれ?抵当権が信託に入ってる!?
こっ、これは…
H26の記述の問題と同じでは!
そう!「〇番抵当権抹消及び信託登記抹消」です。
ここから、H26に依頼を受けた司法書士法務花子への挑戦が始まります。
法務花子のように、スピード感、判断力、空想力を持って勝負です。
よし!勝つぞ~!と燃えてきました





(注)ここからは、H26の記述の過去問を手元において下さい。守秘義務の点から、登場人物は、H26の記述の登場人物での説明になります。
燃えてきたのですが…
登記記録を見て、ふと疑問が…。
信託の抹消の原因って何だろう?
実務では、ここで、抹消の原因を確認しないと、申請件数が変わる場合があるので、抹消の原因が気になります。
例えば、抹消原因が「弁済」ではなく「解除」であれば、信託目録を確認して、受託者の解除権限の有無が信託目録にあるかを確認することになります。
「弁済」?「解除」?どっちだ?
もし、「弁済」だったら、何の問題もないのですが、「解除」だったら、メンドクサイことになります。報酬も変えたいところ(笑)
つまり、抹消の原因が「解除」の場合、
信託目録に、受託者の抵当権解除の権限が「ある」のであれば、同じように一括で抹消登記をすればいいのですが、
受託者の解除権限が記載されてい「ない」のであれば、H26の登場人物だと、
①委託者である株式会社Y銀行を権利者、受託者であるZ信託銀行株式会社を義務者として、抵当権の移転の登記と信託登記を「信託解除」を原因として抹消したあと、
②抵当権の登記を、共有者であるA株式会社とBを権利者、委託者である株式会社Y銀行を義務者として、「解除」を原因として抹消することになります。
「弁済」と「解除」、どっちだろう…。電話で、書類を手元に持っているお客さんに聞けばいいのですが、
お客さんに聞いても、抹消原因は分からないと言われるのがオチ。分かったとしても、書類を見るまでは、信じないひねくれた自分がいる(笑)
ということで、「弁済」と「解除」の両方に備えることに…。
って…
もし、「解除」だったら、受託者の解除権限の確認がいるわけで、信託目録も確認しておく必要があります。
ところが、僕がさっき登記情報提供サービスで取得した登記記録は、信託目録を入れてません(笑)
登記記録を取得する場合には、「共同担保目録」と「信託目録」を入れるかどうか、選択できます。
通常、「共同担保目録」は入れて、「信託目録」は入れないことが多いです。
「共同担保目録」は他の不動産も引っ張ってくれるので、申請漏れがないように、必ず入れるようにしていますが、「信託目録」は、「どうせ、信託なんてないだろう」という偏見が先にあるので、無視することが多いです(笑)
ってことは、信託目録を入れて、登記記録の取り直し(苦笑)
自分のミスなので、お客さんに請求するわけにもいかず、費用も時間も後手後手。
もうこの時点で、法務花子にスピード感で負けてます。
てか、法務花子は、この抹消原因をどのように確認したんだろう…と、自分の事より、他人の事の方が気になります(笑)ちょっとH26の過去問のチェックです。
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【事実関係】
12 A株式会社は,平成26年6月4日,Z信託銀行株式会社に対し,その被担保債権の全額を弁済した。別紙1の乙区2番付記1号の担保権の移転に係る信託には,その終了原因や弁済金の受領権限につき信託行為に別段の定めはなく,当該弁済により,Z信託銀行株式会社と株式会社Y銀行との間の信託も,その目的を達成したので終了した。
15 平成26年6月4日,司法書士法務花子は,関係当事者から上記10から14までの事実関係を聴取するとともに必要な手続を終えたとの報告を受けたため,株式会社Y銀行を除く関係当事者全員から,上記1から14までの事実に基づいて必要となる全ての登記の申請手続につき代理することの依頼を受けるとともに,登記申請に関する委任状その他【添付情報一覧】に記載された書類を受領し,同日,管轄登記所に書面を提出する方法により,登記の申請を行った。
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なるほど、事実関係12で聞いた話を真に受けたわけか…。素直だ(笑)
で、同日申請。さすが!
あっ、他人の事を気にしている場合じゃなかった…。
登記記録を取り直してみると、受託者の解除権限の文言がありませんでした。
多分、法務花子と同じように、「弁済」だと思うのですが、それはお客さんの書類を確認するまで、分かりません。決めつけが一番こわいです。
ところで…ライバル法務花子は、信託目録は確認したのかな?
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別紙1
信託目録の信託条項の欄 【略】
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さすが、法務花子。余裕でスルーしています。
さて、両方の対応ができるようにして、お客さんを待っていたところ…
ここで、ふと疑問が…。
あれ?「解除」の場合は、信託目録って添付情報で付けるんだっけ?ヤバい、忘れてる(笑)
抹消原因が「弁済」だと、信託目録の確認は不要、なので添付も不要になります。ほとんど、このケースなので、こっちは覚えていますが、「解除」はレアなので、完全に忘れてる。
この時点で、オンラインの申請を諦めました。
補正に対応するためです(爆笑)
自信がないときには、オンライン申請はやめています。補正や取下げは、書面の方が楽です(笑)
そんなキタナイことを考えていたら、お客さんが来所。
書類をドキドキしながら確認です。
結果発表!抹消の原因は…
弁済!





ちょっと、心の中で、ガッツポーズ
一気に楽チンに(笑)

ただ、ここで、もう一つ確認が必要です。
登記原因証明情報の中にも、「抵当権が消滅した旨」と「信託が終了した旨」が記載されている必要があります。
たま~に、ヘンな登記原因証明情報を出してくる銀行もあるので、その内容を確認。
なになに…
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「登記の原因となる事実又は法律行為」
(1)甲は、乙に対して、令和○年○月○日、本件抵当権の被担保債権全額を弁済し、同日、本件抵当権は消滅した。
(2)また被担保債権の弁済により、信託契約は信託法第163条第1号に規定する信託の目的を達成したことになり、本件信託も終了した。
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うん、ちゃんと、「抵当権が消滅した旨」と「信託が終了した旨」が入ってますね。
でも…
あれ!?条文が入ってる?なんで…(笑)
てっきり、「抵当権及び信託登記解除証書」のカタチで、
「本件抵当権は、令和○年○月○日、弁済を受け抵当権及び抵当権移転登記は消滅し、それに伴い信託も終了しました。」と、
サラッと書かれていると思っていたので、条文が入っていると、念のために確認しておかないとダメですね。銀行が間違えていることもあるだろうし…。
ここで、条文をチェック。
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(信託の終了事由)
第163条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
① 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
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なるほど、「信託の目的を達成」ってことですね。
ここまで来て、やっと申請ができると判断。
もう、法務花子のスピード感には、全くついていけていない状態(笑)
法務花子への負けを認めつつ、お客さんから委任状をもらいます。
この場合、抹消されるのは、抵当権と信託の2つの抹消ですが、
抵当権は、「共有者であるA株式会社,B」と「Z信託銀行株式会社」の共同申請で抹消。
信託は、受託者「Z信託銀行株式会社」の単独抹消です。
なので、「A株式会社,B」から、信託の抹消の委任状をもらう必要はありません。
あれ?
法務花子は、ちゃんと気づいていたのかな?
法務花子を確認です。
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(答案作成に当たっての注意事項)
4 第36問答案用紙の第1欄から第3欄までの添付情報の欄に解答を記載するに当たっては,次の要領で行うこと。
(3)後記【添付情報―覧】のアからニまでに掲げられた情報以外の情報(登記申請に関する委任状等)は,記載することを要しない。
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まさかの、委任状を誰からもらうかは、スルー(笑)
キタナイぞ、法務花子!
結局、オンライン申請を諦めたので同日に申請することもできず…。
法務花子のスピード感、判断力、空想力の前になす術もなく完全敗北。
もう少し、法務花子のような素直さとスルー能力を身に着けていこうと思います(笑)
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最終更新日 : 2020-06-13